米国に進出している日系企業の中には、経理担当者が1名、あるいは数名のみで会計業務を担当しているケースが少なくありません。限られた人数で業務を効率的に運営できる一方で、現金や預金に関する管理が一人に集中しやすく、不正やミスが発生するリスクも高まります。
特に中小規模の米国子会社では、人手不足やコストの制約から、日本本社のような十分な職務分掌を実現することが難しい場合があります。しかし、人員を増やさなければ内部統制を強化できないというわけではありません。少人数体制であっても、業務の見える化やレビュー体制の導入によって、不正リスクを大幅に低減することができます。
今回は、追加採用を行わなくても実施できる現預金管理のポイントについてご紹介します。
少人数体制で発生しやすいリスク
現金や預金に関する保管、承認、記録を一人の担当者が兼務すると、不正や誤りを発見しにくくなるため、リスクが高まる、とされています。例えば、一人の経理担当者が白紙小切手を保管し、小切手に署名を行うことができ、この出金を記帳できることが出来る場合、自分で行った支払いを自分でチェックすることになり、誤りや不正が発見されにくくなります。
では、人員を増やさずに実施できる現預金管理上の内部統制には、どのようなものがあるのでしょうか?
入金管理で取り入れたいチェック
米国では電子送金が普及していますが、取引先によっては現在でも小切手による支払いが行われていることがあるかと思います。
このような環境では、入金業務が一人の担当者だけで完結しないようにすることがポイントです。少人数の組織であっても、入金に関する記録や処理内容を確認できる仕組みを設けることで、牽制機能を持たせることができます。不正防止というと大掛かりな仕組みを想像されるかもしれませんが、実際にはシンプルな確認作業が大きな効果を発揮します。
方法としては
① 他部署による受け取りとログ作成:届いた小切手は経理以外の担当者が開封し、受領日・顧客名・小切手番号・金額を記録してから経理へ渡します。万が一紛失などが発生した場合でも、どの小切手に問題があったのかを特定しやすくなります。
② Lockbox(ロックボックス)の活用:顧客からの小切手の送付先を自社オフィスではなく銀行のLockboxに設定します。小切手が直接銀行へ届くため、社内で小切手現物を管理する必要がなくなります。
③ 売掛金滞留表の定期レビュー:月に一度、売掛金滞留表を確認し、長期化している売掛金について理由を確認します。これにより、小切手の盗難による入金遅れや不自然な滞留の発見につながります。
このように、入金統制は「受け取り方」「流れの記録」「定期確認」の3つの観点から強化することができます。
小切手による支払いで取り入れたい5つの統制
近年はACHなどの電子決済が普及していますが、ベンダーによっては依然として小切手での支払いを求められるケースがあります。そのため、少人数拠点であっても小切手の発行から銀行照合までのプロセスにチェック体制を組み込むことが重要です。
- 経理担当者以外による白紙小切手の保管:未印刷の白紙小切手は鍵付きの引き出しなどで保管し、その鍵は経理担当者以外が管理します。経理担当者が自由に小切手を持ち出せない環境を整えることで、偽造や未承認発行の機会を減らすことができます。
- 小切手シリアル番号の自主記録:小切手の署名者が、小切手帳の最新の開始番号を記録しておきます。月1回、銀行明細と照合し、不自然な番号の飛びがないかを確認することで、未承認の小切手持ち出しや不正利用の発見につながります。
- Void(無効)小切手の現物確認:無効化した小切手は現物を残し、後から確認できる状態にしておきます。Void処理の妥当性を確認しやすくなり、不自然な処理や隠れた不正の見落としを防ぐことができます。
- 支払いリスト(Check Register)の定期レビュー:1か月間に発行された支払い先リストを経営者が定期的にレビューします。不審な仕入先(架空ベンダー)への支払いがないかを確認し、不正の抑止につなげます。
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銀行勘定調整表(Bank Reconciliation)の最終検証:月1回、Bank Statementと銀行勘定調整表を突き合わせ、最終残高や未決済小切手(Outstanding Checks)などの調整項目を確認します。不正な支払いや未承認取引、通常とは異なる取引や誤記録の発見につながります。
小切手による支払いの統制は、「支払いの承認」「小切手の管理」「支払先のレビュー」「銀行照合」という複数のチェックを組み合わせることで強化することができます。
オンライン支払いシステムの活用
最近ではBILLなどのオンライン支払いシステムを導入する企業も増えています。オンライン決済のメリットは単なるペーパーレス化ではありません。BILLでは承認者をシステム内で設定することができ、設定された承認者しか支払いの承認ができないようにできます。よって職務分掌を実質的に実現できます。また、承認者は請求書データや支払先情報を画面上で確認できるため、架空請求や不自然な支払いを発見しやすくなります。さらに、誰が申請し、誰が承認したのかという履歴が残るため、監査対応や内部統制の観点からも有効です。
まとめ
人員を増やさなくても、レビュー体制やチェックポイントを設けることで十分な現預金に関する牽制機能を構築することが可能です。
内部統制は会社の資産を守るためだけのものではありません。経理担当者自身が適切に業務を行っていたことを証明し、不必要な疑念やトラブルから身を守るための仕組みでもあります。
限られた人員だからこそ、「人を増やす」のではなく「チェックの仕組みを増やす」という視点で、今一度現預金管理体制を見直してみてはいかがでしょうか。




